2021/07/07

今日もていねいに。27

みなさん、こんにちは。
松浦です。

このたびの大雨で被害に遭われましたみなさまに心からお見舞い申し上げます。
一日も早い復旧を心からお祈り申し上げます。

僕には七年近く文通をしている友人がいます。
二ヶ月に一度くらいのやりとりでしょうか。
今風のメールやSNSではなく、便箋に言葉を書く手紙です。
そうですね。毎回六枚くらいの便箋を使います。
この分量がちょうどいいということが、
長年のやりとりでお互いわかったというか、
自然と見つかったのです。

短くもなく、長すぎることなく、
読んでいて味気なさを感じず、それでいて重くないというか、
他愛ないことであっても深刻な内容であっても、
相手を困らせない感じで、
とはいえ、親密な時間であるような。

そう。手紙とは、話したいことを想う時間を経て、
書いている時間、そして、それが配達されている時間、
手元に届いて封を開けて、便箋を取り出し、
折りを開いて書いた文字を見たときの時間、
ああ、元気そうだなと、ほっとする時間、
そういういくつもの時間の交歓があり、
目で読むというよりも、
言葉のひとつひとつをこころで聞く時間に、
なんだろう、直に会って会話する以上のふれあいが生まれる。

一番長いのは話したいことを想う時間です。
半日? いや、もっと。何日も。

手帳を開いて、あの日あの時のことを想ったり、
日記やメモに綴った、
楽しみや喜び、悲しみや不安を振り返ったり、
まあ、とにかく、
僕はこんなふうに今日もなんとか、
もがきながら生きている。
会いたくても会えないけれど、
心はいつもそばにいる。
遠くても空はつながっている。
という気持ちでペンを持つ。

ポストに封筒を落とすとき、
心の中で手を合わせるのはなぜだろう?
手紙が着いた頃、必ず空を見上げます。
きっと彼もそうしているからだ。

言葉を書く。
手紙はいいですね。

今日もていねいに。
それではまた。

松浦弥太郎

エッセイスト、クリエイティブディレクター

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