2021/02/03

今日もていねいに。05

こんにちは。
松浦です。

一枚の写真があります。
夏の日差しに照らされた父と母が写っている。
二人とも若く二十代です。

「この写真あげるわ。あなたが持っていて」。
ある日、八十歳になった母が僕に手渡しました。
「こんな写真はじめて見た」と言うと、
「お父さんと結婚する前よ。お父さんがずっと持ってたから」。
そう言った母は指で父の顔を何度もさすった。
父は六年前に亡くなっている。

介護をしていると、最近、母は昔のことをよく話してくれる。
自分の幼少の頃。父と出会った頃。楽しかったことや苦労したことなどを。

「よく憶えているね」というと、
「ずっと日記を書いているからね。昔の日記を読むこともあるから」と母は言った。
筆まめの母は今でも毎日、日記を書いている。
「あなたの成長も全部書いてあるわよ」と母はニッコリと笑った。

「いつか思い出したいことがあるから書くのよ」。

日記を宝もののように大切にしている母を見ると、
日記は自分が生きてきた証であり、

そういった日記や手帳という存在は、
未来の自分への贈り物になるんだ、と思った。

若かりし父と母の写真は、ずっと父の手帳にはさまれていたらしい。
今は僕の手帳のページにはさまれている。

一日に一度、必ず見ている。

それではまた。

松浦弥太郎

エッセイスト、クリエイティブディレクター

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