2021/05/12

今日もていねいに。19

こんにちは。松浦です。
いかがお過ごしでしょうか。

はじめて作った料理はなんだろう。

僕には二歳上の姉がいて、
彼女が何かのお祝いで買ってもらった、
「ママレンジ」というおもちゃが家にあった。

「ママレンジ」とは、
キッチンのガス台がそのまま小さくなったもので、
電熱コンロの上に直径10センチほどのフライパンがひとつ載っていて、
そこでホットケーキを焼けるという夢のようなおもちゃだった。
スプーンのふちがフォークのようになっている、
専用のかきまぜ器のかたちをよく憶えている。

僕と姉は直径5センチほどのホットケーキを、
生地が無くなるまでひたすら焼いた。
フライ返しで上手に裏返すごとに、僕と姉は歓声を上げて、
焼き上がったホットケーキは一枚一枚重ねて盛りつけた。
そのおいしさと言ったらなかった。
自分で作ったものを、
自分で食べるおいしさを初めて知ったのはこの時だった。

そんな記憶があるからか、ホットケーキへの思い入れは深い。
今でもパンケーキを焼く時に、
「ママレンジ」の小さなフライパンに生地を流す瞬間や、
フライ返しでひっくり返す様子や、姉の笑顔が思い浮かんで、
あったかい気持ちで胸が一杯になる。

料理というよりも遊びだったけれど、
ほんものの料理が出来上がるというのが驚きであり喜びだった。

そうそう。
姉がいたからか、おままごとという遊びはそれこそ日々の定番だった。
公園の砂場で、砂で作った団子をコロッケにして、
落ち葉を野菜代わりにおかずにして、いっぱしの献立もどきを揃えて、
「いただきます」「今日のコロッケはおいしいねえ」「残したらだめよ」なんて、おもしろおかしく遊んだものだ。
大きな声で「おかわり!」なんて叫んだり。

大げさなようだが、
あの日あの時の「おままごと」という遊びの先に今の自分がいると思う。
子どもの頃の遊びが人を育むというのは本当だ。

今、大人になった自分を育んでくれる遊びは何かと考えた。
もっと遊ばないとだめだと思った。

あの頃のような喜びが愛おしい。

今日もていねいに。
それではまた。

松浦弥太郎

エッセイスト、クリエイティブディレクター

関連記事