2021/09/15

今日もていねいに。36

みなさん、こんにちは。
いかがお過ごしでしょうか。

暑かった夏が過ぎ去り、
秋めいた風がそよぐこの頃ですね。

幼い頃のはなしです。
わが家は共働きでした。
夕方になって仕事から帰ってきた母は、
すぐに腰にエプロンを巻いて、
台所に立って夕飯の支度をしていました。
とても忙しそうに。

僕はそんな母と少しでも、
あーだったこーだったと、
今日の出来事を話したくて、
台所の隅に立って、母に話しかけました。

母はいつも庖丁で野菜を切ったりしながら、
そうだったのね、あらまあ、なんて言いながら、
僕のおしゃべりを聞いてくれました。
そのひとときがとっても嬉しかった。

ときおり、それとって、とか、
これをこうしておいて、これハサミで開けて、
なんて料理の手伝いを頼まれるのが嬉しくて、
なにかやることない?と聞くのでした。

そうそう、何が好きと聞かれたら、
僕はお手伝いが大好きでした。
これやって、と言われるととびきり嬉しかった。

よーくその人の話を聞いてから、
お手伝いさせてと気持ちを伝えると、
どんなに小さなことでも、
お手伝いをさせてもらえるのを、
毎日、母とのやりとりのなかで学んだのでしょう。

考えてみれば、
昔から今に至って、
僕は、仕事という名の下で、
その頃と同じ気持ちで「お手伝い」に
喜びを感じているのかもしれません。
きっとそうです。

何かお手伝いすることはありませんか?
どうかお手伝いさせてください。

そういう気持ちが、
僕自身の生き方でもあるのかなあと思うのです。

僕の職業はお手伝いさん。

それではまた。
今日もていねいに。

松浦弥太郎

エッセイスト、クリエイティブディレクター

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