2022/07/27

今日もていねいに。76

みなさん、こんにちは。
いかがお過ごしでしょうか。

手帳にはいろいろなものが
雑多にはさまっていて、
それらは懐かしい旅の断片ばかり。

この小さなメモはなんだろうと思い、
しげしげと読んでみると、
ああ、あの時の目玉焼きのことだ、と思いました。
忘れないように書き留めていたのです。

ニューヨークの北にブロンクスという街があり、
そのブロンクスのアーサーアヴェニューという通り周辺は、
昔ながらのイタリア人街として知られています。

アーサーアヴェニューは、
ニューヨークだけど、イタリアなんだ。
一度行ってみるといい、と、
ニューヨークタイムスで働く友人が教えてくれたのです。

アーサーアヴァニュー商店街は、
高い建物がひとつもなく、
まさにオールドニューヨーク感たっぷりの雰囲気。
なんだか昔にタイムスリップしたような気分でした。
この街をすぐに気に入り、なんと3日も通い詰めました。
あの頃も夏真っ盛りでした。

チーズ、お惣菜、パン、パスタ、スイーツ、飲み物、
カフェやレストランでの料理など、
混じりけのないイタリアのおいしさを毎日堪能しました。

お店はどこも家族で経営をしている個人商店ばかり。
道端ではイタリア語が飛び交っています。
グラニータという冷たいシャーベットは絶品で、
毎日食べても飽きません。

いちばんおいしかったのは、
小さな食堂で見かけた目玉焼きでした。
それは店で働く若い女性のまかないで作られたものでした。
あまりにおいしそうに見えたので、
僕にも作ってくださいと頼んで食べた一品です。
こんなかんたんなものでいいのか、と驚かれましたが、
そのかんたんさに惹かれたのです。

今日はその目玉焼きを再現してみました。

つけあわせは、
茹でたじゃがいもを、
オリーブオイルとバターでかりっと焼いたものと、
バジルの葉にオリーブオイルをかけたサラダだけ。

主役の目玉焼きはこんなふうです。

じっくり弱火で焼いた目玉焼きに、
削ったチーズをたっぷりとふりかけて、
一筋のオリーブオイルをたらり。
目玉焼きは半熟です。

どうでしょう、おいしそうでしょう。
じゃがいもを目玉焼きの黄身につけていただきます。

たったこれだけですが、
いつもの目玉焼きがごちそうに。
しかも、かんたんに作れるのがいい。
ぜひ、おすすめします。

夏のアーサーアヴェニューの夕べ。
忘れられない旅先のあの味この味。

それではまた。
今日もていねいに。

松浦弥太郎

松浦弥太郎

エッセイスト、クリエイティブディレクター

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