いとうせいこうさんスペシャルインタビュー

いとうせいこうさん

名言大賞の審査員を
務めた
いとうせいこうさんに特別インタビュー
行いました。

Q1第27回の名言大賞の審査をしての全体の感想を教えてください。
今回で審査員を務めるのは2回目でしたが、いろいろな場面で短い言葉でも人の心を惹きつけられることがあるんだなと、毎回本当に感動させられます。
自分自身でも審査段階のときに作品を選び、選考と話し合いを重ねてきたにもかかわらず、表彰式の際に改めて読み返すとまたグッときてしまう、あれは何なのでしょうかね(笑)
不思議なものがありますね。
名言だけでなく、その名言が生まれたエピソードまで読むと、ほんとショートストーリーのようにも感じられて、そこが上手な人が受賞されているようにも思いました。
また、全体として「いいな」と思った作品は必ずしもその年に生まれた言葉ではなく、何年も前に聞いた言葉、何十年も前に聞いた忘れられない言葉がウィスキーのように熟成されてきた作品も多くあるなということも実感しています。
Q2今回の第27回名言大賞で大賞を受賞した作品について、大賞となったポイントを教えてください。
今もまだまだ女性が育児を押し付けられているような状況の中で、すごく育児が大変だったんだろうなと想像できるのですが、そんな中、上の世代のお母様が育児に葛藤している娘さんに対してかけたのが「あなたはたくさんいていいのよ」という言葉。この言葉がどれだけ彼女を解放させてくれたのだろう!と思うと、この言葉は女性に限らず男性も含めて今後みんなに実際に体験したり、勇気づけられたりしていってほしいなと。
母親が育児をしなくてはならない、母親はこうあるべき、といったように世の中は狭く人を括るような風潮に実はなっているかもしれない中、だからこそ「あなたはたくさんいていいのよ」という言葉は「そうだよな」とより共感することができた作品でした。
Q3現在、第28回の名言大賞の募集を行っておりますが、期待することやアドバイスをお願いします。
僕が期待するというよりも、毎回想像もできないような作品が逆に僕をびっくりさせてくれています。その人が自分を、そして自分の心をその時に揺り動かした言葉が、まったく違う立場の人であってもその情景やこれまでのその人の生き方も含めて理解できた時って「はっ」としますよね! なので、過去をよく思い出してみて、例えば「特に何の特徴のなかった人生だな」と思っていたとしても、よく考えたらすごく面白い人と出会っていたな、すごくいい言葉に支えられてきていたな、などと自分を振り返ることができる良い機会にもなると思うので、名言大賞をそういう風に“逆”利用してみてほしいですね。しかも大賞に選ばれ、さらにみんなを感動させることができれば賞金ももらえるなんて、こんな夢みたいな話はないですよね(笑)。
Q4名言大賞は思わずメモした「忘れられないひとこと」を応募いただくものです。いとうさんにとっての「忘れられないひとこと」を教えてください。
そうだなぁ、小学校の時に親が学校に呼ばれて「何があったんだろう」と思っていたら、息子さんには、『とにかく雑読させてくれ、ジャンルに縛られずにいろんな読み物を読ませてくれ』と先生がわざわざ親を呼び出して言ってくれたらしいんですよ。その先生の意図はいまだによくわからないのですが、でも確かに僕はいわゆるマルチと言われる分野に後にいくことになるのだけれど、きっとその先生が「ある作家が好きになったらその作家の作品ばかりを読ませてはだめだ、訳のわからないものまで全部息子さんに読ませなさい」と言ってくれたのは後々の僕にとってはとても大きな言葉だったように思うんです。
親は先生からそう言われてしまった手前、僕が読みたいと思った本は買ってくれたので、その先生の一言があってのものだったんだな、ということが今になって思い出されますね。
先生はきっと僕が傾きかけている「何か」に気付いていて、漫画も含めてとにかくいろんなジャンルの書籍を読むようにとアドバイスをくれたのはとてもありがたく、その先生の一言が今の僕を創った、といっても過言ではないですね。
Q5いとうさんご自身は、テレビラジオなどのご出演のほか小説を執筆されたり作詞をされたり「コトバ」にまつわる様々な活動をされていらっしゃいますが、それぞれの場面によって「コトバ」を扱う際にどのようなことを意識されていらっしゃいますか?
それぞれのシーンで対峙する方、言い換えると僕にとっての『お客さん』はどういう方なのかは常に意識はします。だからといって言葉のレベルを下げたりまでして相手を理解させるようなことはしないですけど。
なので、実際に言いたいことと違うことが伝わらないように気を付けながら、わかりやすく言葉を伝えるように心掛けています。僕の仕事はそれに尽きると言ってもいいかもしれない。例えばTVでコメントする場合、誰かが難しいけれどもすごく面白いことを言った際に「これじゃ視聴者に伝わらないな」と思ったら、僕が例え話で「それは言い換えると、こういうことですよね」と伝えることで媒介役になる。それが僕の立ち位置でもあり、特徴でもあると思うので、その点は常に意識するようにしています。一言で表すと通訳のような存在かもしれませんね、メッセージはなるべく変えずに、でも伝えるように言い換えるにはどうしたらいいかを常に意識する。そう考えると僕は「日本語の翻訳家」のような仕事をしていますね(笑)、それが好きなんだと思います。