2021/04/07

今日もていねいに。14

こんにちは。
松浦です。

子どもの頃のこんな思い出があります。

ある日のお手伝い。
洗ったお茶碗を布巾で拭いている僕を見た母は、
「もっとていねいに……」と言いました。

僕は濡れたお茶碗を、少しめんどうくさい気持ちで、
布巾でぎゅっぎゅっとちからをこめて拭いていたのです。
「こうしたほうがしっかりと拭けるから」と言い返しました。

すると母はこう言いました。
「『いつも役立ってくれてありがとう』と声をかけながら拭いてあげましょう。
あなたは毎日このお茶碗でおいしいごはんを食べているのでしょう。
お茶碗に感謝しましょうよ。お茶碗だけでなく、
お箸やお皿にだって、どんなものにも『いつもありがとうね』と感謝することは大切。
そうすると、不思議といつもよりもっとぴかぴかになって、
もっと料理をおいしそうにしてくれるのよ。
ていねいに、というのは「ありがとう」と感謝をすることよ……」と。

その日の夜のことです。
僕がお風呂から出ると、母はタオルで濡れた身体を拭いてくれました。
母はいつも僕をとても大切なもののように、
決してごしごしと拭くことなく、やさしくタオルを当てて拭いてくれました。
僕はそれがとっても気持ちよくて大好きでした。

「お母さん、ていねいにっていいね」と言うと、
「そうよ。ていねいはいつも自分に返ってくるのよ。
あなたがていねいにすればするほど、それだけあなたもていねいにされるの」と母は言いました。

「明日はていねいをたくさんしよう」と思いながら、
僕は眠ったのでした。

それではまた。
今日もていねいに。

写真*みなさんは手帳の記入にどんなペンをお使いでしょうか。
内容によって使い分けるのも楽しいですね。

松浦弥太郎

エッセイスト、クリエイティブディレクター

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