2021/03/10

今日もていねいに。10

こんにちは。
松浦です。

幼い頃、母がつけた僕のあだ名は,
「迷子の達人」または「逃亡犯」。

買い物や旅行でほんの少しでも目を離すと、
いつの間にかどこかへと消えるそうです。

もちろん僕にも記憶があります。
今も昔も出かけるのが大好きで、
見るもの聞くものに興味津々。
お店でも道端でもそこに珍しいものがあれば、
近くにいって間近で見たいのです。
そこへ出発したいのです。

つないだ手を母がふとしたことで離してくれたら、
自由きままに、それこそ糸の切れた凧のように、
タッタッタと駆け足でそこへ。

とにかく、どこかへ向かって歩くのが大好き。
しばらく歩きまわると気が済むのですが、
その時はもう自分がどこにいるのかわからず、
母の元へと戻ろうと歩けば歩くほどにさらに遠くへ。
結局、迷子になって、母に叱られることの繰り返し。
「まったく、迷子の常習犯ね!」と。

大人になって世界中を旅しました。
いつも一人なのは迷子三昧をしたいから。
この先には何があるんだろう。
曲がったら、そこには何があるんだろう。
「地面はつながっているから大丈夫。歩けばいつか帰れる」。
これが幼い頃からの僕のセリフです。

その場所を覚えておきたい時は、
手帳に地図を描いておく。
「地図は買うものではなく、自分で作るもの」。
これも僕の旅の楽しみ方のひとつ。

その時、自分の描いた地図が、
たっぷりな僕の手帳は自慢です。
あの日あの時あの場所で出会った、
風景や人や出来事、
小さなモノたちの物語も蘇ります。

大人になった今でも、
迷子の達人は治りません。
迷って泣きそうになっても、
あっちだと思う自分を信じて、
こわがらずに歩けば、上を向いて歩けば、
いつか家に帰れることを知っているからです。

それではまた。

松浦弥太郎

エッセイスト、クリエイティブディレクター

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