2021/03/03

今日もていねいに。09

こんにちは。
松浦です。

なにかあるたびに読み返す一篇の詩があります。
高田敏子さんという詩人の「水のこころ」という詩です。

その詩には、冒頭に、
水はつかめない、水はすくうのです。
と書かれています。

手の指をぴったりつけて、そっと大切に。
そしてまた、水はつかめないから、

ふたつの手の中に、
そっと大切につつむのです。と。

高田さんは最後にこう書きます。
水のこころも。ひとのこころも。と。

何度も読んで、この詩に僕がひかれるのは、
人のこころというものは、
つかんではいけない。つかむものではない。

ふたつの手で、
やさしくそっとすくうこと。
ふたつの手で、
そっと大切につつむもの。

そっとすくうこと。大切につつむこと。
この人と関わるときの心をあらわした、
ふたつの言葉です。

もしや忘れていませんか。と、
高田さんは言ってくれています。

いわゆる詩人の詩ではなく、
家庭の人、普通に生きる人たちに、
母であり妻でもある高田さんは、
ありのままの自分の言葉を書き続けました。

高田さんの詩は、
生きることへの愛着にあふれています。

つらいことも、うれしいことも、
しっかりと自分と向き合い、
すべてを受け止めて生きてゆこう。
高田さんは僕らにそう教えてくれています。

人の心はつかむのではなく、
すくうのよ。つつむのよ。と。

高田さんは15歳のとき、
最愛のお父様を亡くし、暗い毎日を過ごしていたといいます。
そのとき、彼女を救ったのは書くことでした。
自分の気持ち、自分の思い、自分の苦しみを、
生きる目的として書くことでした。
誰かが読んでくれるかもしれないという、
小さな希望を抱いて。

そう、小さな希望を抱いて。

それではまた。

松浦弥太郎

エッセイスト、クリエイティブディレクター

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